「歩行」と「認知症」
皆さん、自分がどんな歩き方をしているか、ぱっと想像できますか?
自分の歩く姿を客観的に見ることは少ないですし、普段から自分の歩き方やスピードを意識して歩いている、という方は少ないのではないでしょうか。
実は、歩き方の変化が認知症の初期症状として現れることがあります。
また、「よく歩くと認知症になりにくい」ということも、最近の研究で分かってきました。
今回は、「歩行」と「認知症」がどう関係するのか、調べてみました。
認知症になると歩き方はどう変わる?
認知症は脳の神経細胞やその結びつきに影響を与える疾患です。
認知症が進行すると、歩行に関わる神経系の調整やバランスに影響が出るため、歩行動作が退化しやすくなり、歩き方に変化が表れます。
認知症の方に見られる、特徴的な歩き方を3つご紹介します。
自分の歩き方が当てはまっていないか、チェックしてみましょう。
歩幅が狭くなる
加齢による足の筋肉の衰えも影響し、認知症を発症する前よりも歩幅が狭くなるケースがあります。歩幅が狭くなると歩行速度が低下したり、小刻みにしか歩けなくなったり、足が前に出にくいといった傾向が見られるようになります。
歩行が安定しなくなる
認知症の影響により、足もとがふらつきやすくなり真っ直ぐ歩くのが難しくなるなど、歩行が不安定になることがあります。そのほか、歩く際に前かがみになってしまうなど体勢の悪化が見られることも少なくありません。
すり足になる
足が上がりにくくなり、地面に足を擦りつけるように歩く「すり足」も、よく見られる歩き方の変化の一つです。すり足には脳の認知機能だけでなく、足の筋肉の衰えも影響しています。
すり足になってしまうと段差につまずきやすくなるのはもちろん、何もない場所で転倒する原因にもなるため注意が必要です。
歩くと脳が活性化する!
脳が正しく働くためには、絶えず十分な血液が流れている必要があります。
高齢者やアルツハイマー型認知症患者では、大脳皮質や海馬(記憶などの高次機能を司る部位)で脳血流の低下がみられます。この大脳皮質や海馬には、大脳の奥から伸びてきてアセチルコリンという化学物質を放出する神経(アセチルコリン神経)が来ています。
このアセチルコリン神経を活発にすることによって、脳内部の血管が広がって血流がよくなったり、脳を守る重要なタンパク質(神経成長因子)が増えたり、神経細胞のダメージを軽減することがわかっています。
歩くことで、脳のアセチルコリン神経が活性化され、海馬や大脳皮質の血流が増え、認知機能や記憶力の回復につながるのです。
積極的に歩こう!
認知症の予防には、日常生活で積極的に歩くことが有効的です。
普段とは異なる場所を歩くことで、脳にさまざまな刺激を与えられます。
特に新しい場所やなじみのない場所は、未知の環境への適応が求められ、脳の活性化を促します。
いつもと違う帰り道を選ぶだけでも良いかもしれません。
また、通常のウォーキングの中にスピードウォーキングを取り入れる「インターバルウォーキング」もおすすめです。スピードにアクセントがつくことで飽きがこず、脂肪燃焼効果も高まります。
「インターバルウォーキング」の方法は、通常のウォーキングとスピードウォーキングを無理のないように3分ずつ繰り返します。
普段のウォーキングにインターバルウォーキングを3セットほど取り入れましょう。1日で10分、週1時間以上くらいの運動量で行います。
信州大学の研究では、筋力や筋持久力がアップすることで疲れにくい体になり、リズムの変化が前頭葉を刺激するため、通常のウォーキングよりも認知症予防の効果が期待できると言われています。
歩き方の変化は自分自身では気付きにくいものです。
家族や友人に歩行を見てもらったり、歩行のデータを計測できるアプリやスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスを利用することが効果的です。
物忘れや記憶力の低下が心配な方は、今日からウォーキングを取り入れてみてはいかがでしょうか。